運針

　何十年もの間、着ていたものは、何だか捨てかねて、整理箪笥がいっぱいになっているので片付けを始めました。中に見慣れない包みがあって開けて見ました。小学生の頃、裁縫の時間に運針をさせられましたよね。さらしの生地に細かく縦横に縫ってあります。でも気付きました。これは私が縫ったものじゃない。母は九十才まで生きて姉と暮らしていたけれど、何もすることが無く、耄けるのを案じた姉が運針を勧めたと聞いた事が有りました。９人の子供を育てた母は自分の趣味を愉しむ時間も無かったんだろうな。巡り回って姉の死後私に届いた遺品でした。黙々と針を運ぶ母の背中が浮かんで、まぶたが厚くなりました。何十枚もあるこの雑巾、一枚宛ちゃんと使いますよ。でも、母の生け花は見事でした。結婚前、花嫁修業で習ったものでしょう。お正月に何時も生けていた、池坊流の松は私は、とても叶いません。運針をした切れの発見で思い出しました。色々。

彌　叡